電動車椅子で海外へ

私は海外で長期滞在した経験はありませんが、アメリカ、フランス、台湾、デンマークなどに行く機会がありました。その経験から思うことは、日本は車椅子で街に出やすく移動しやすい国の一つだということです。

20年前アメリカで味わった感動

20年ほど前、小学生だった私は両親と共にアメリカ西海岸を旅行しました。当時、手動車椅子を使って外出しておりましたが、日本では駅にエレベーターはなく、道も段差が多く、車椅子トイレも少ない状況でした。
アメリカ西海岸は駅にエレベーターがあり、街には段差が少なく、大学やショッピングセンターなどがバリアフリーでした。当時はかなり感動し、アメリカに住みたいとさえ思いました。

フランス渡航

2015年にフランス・パリに渡航しました。私と同じ障害を持つフランス人の友人に会うことが目的でした。
パリ市内の移動については地下鉄にエレベーターがなく、街も段差が多く、決してバリアフリー化が進んでいるとはいえませんでした。にもかかわらず、多くの車椅子使用者を見かけました。
不思議で仕方なかったのですが、街を歩いていると車椅子が歩道の段差に引っかかるたびに、通行人が落とし物を拾うような感覚で黙って助けてくれ、その理由がわかった気がしました。ほんの一部しか見ていませんが、フランスでは効率性よりも、他人とコミュニケーションを取ることに重きが置かれているように感じました。気軽に声をかけるパリ市民の温かさに惹かれていきました。
そんなパリで帰国前日に同時多発テロが発生しました。話すことを何よりも大切にしているパリ市民が、対話することもできないまま無言で殺されていったこと考えると心が痛みます。ヨーロッパの抱える様々な社会問題の複雑さについても強く認識させられました。

台湾渡航

2017年、経営する訪問介護事業所台湾への従業員研修旅行に行きました。
台湾の交通機関のバリアフリー化が進んでいることに驚かされました。自分が乗った台北MRT路線は、エレベーターや障害者トイレ、車内の車椅子スペースの設置はもちろんのこと、ホームと電車の間もフラットになっていました。
日本だと多くの路線で駅員さんに簡易スロープを置いてもらわないと乗降できないのですが、台北MRTは駅員さんの手助けなしに好きなタイミングで自由に乗降できます。オストメイトの方のための設備のある障害者トイレも多く、おむつ交換台などの整備も進んでいました。
車椅子の乗客は日本より多く、エレベーター前に車椅子の列ができていた駅もありました。日本でもエレベーターになかなか乗れない経験は多いですが、車椅子の列で乗れないことはありません。障害者の方が外に出ているかどうかは社会によって決まる要素が強いことを実感できました。

デンマーク渡航

2018年、「幸せな国」といわれるデンマークへ渡航しました。
福祉制度の整備で障害者を含むあらゆる人の生活が保障されているというお話を伺いました。街で出会うデンマークの方々は親切で、古い街並みもきれいで、すごく良い国でした。でも、日本の方が車椅子で鉄道を利用しやすく、様々な対応も丁寧であると感じました。
デンマークでは鉄道でサポートが必要な方は、12時間前に依頼しないといけないとのことでした。一方で、デンマークの車椅子使用者の方は、車で移動することが多いので、公共交通機関を使わず、あまり困らないと伺いました。公的に車が支給され、介護職員の待遇が保障されているので運転できるヘルパーさんもすぐに見つかるという事情も背景にありそうです。
日本とデンマークを単純に比較するのは難しいと思いました。デンマークの方の質素な生活や、20%の消費税も含めた物価の高さ、鉄道などのサービスの質などを考えると、現在の日本人の価値観とは合わないのではないかと思うところもありました。
国や地域ごとの価値観は違い、自分たちの「幸せな国」は暮らす国や地域で探すしかないという確信を持ちました。

意外にバリアが多い欧米

日本も法整備が進み、駅や街が以前よりもバリアフリー化されました。2012年、障害がある学生への支援に関してハワイへ視察に行きました。
ハワイもバリアフリー化されていましたが、日本でもそれが当たり前となったことで、十数年前の感動はありませんでした。それどころか、歩道の状態が悪くて車椅子で移動しにくく、エレベーターやスロープも日本よりも使いにくく感じました。
2015年フランス・パリに行った際も、地下鉄のエレベーター設置も進んでおらず、昔ながらの道が残るパリの街は日本とは違い、移動しにくく感じました。
また2018年のデンマーク渡航でも、電車に乗る際には事前予約が必要で、店舗にも段差が多い印象でした。

日本に足りないもの

しかし、上記の国では障害のある方を街の中で頻繁に見かけたり、障害のある人が障害のない人と同じように人生について選ぶ権利が保障されていたりと、障害のある方を含む多様な方の社会参加が進んでいます。欧米では、車椅子で段差に引っかかった時などに何気なく助ける文化も感じました。日本ではどちらもまだ十分ではないと思います。
日本はバリアフリー化は進んできていているので、障害のある方を含む多様な方が参加できる社会を作るのに足りないのは、社会の意識と政治面の変革だと思います。
一方で、ハード面のバリアフリー化についてもまだまだできることはあります
台湾では、日本製の台湾新幹線の車椅子席が日本の新幹線より多いことや、80年以上前に建てられた日本統治時代の建物がバリアフリー化されていることに驚かされました。また、地下鉄などで障害のある方を日本より多く見かけました。
日本では、鉄道車両や数十年前に建てられた建築物のバリアはまだまだ多いです。

答えはどこにあるか

日本は議員などが海外に視察に行くことが多いように思います。海外に学ぶことは素晴らしいことであると思いますが、「海外が進んでいる」という話で終わってしまうのはもったいないことです。
見るだけでなく、実際に変えるところまで達成して初めて、意味のあるものになります。日本の様々な問題を解決するヒントが海外にあるとしても、答えは日本の社会の中にしかないと思います。
デンマークから帰国後、ツイッターに下記の投稿をしました。
「「幸せな国」デンマークへ渡航。福祉制度の整備で障害者を含むあらゆる人の生活が保障されていた。皆さん親切で凄く良い国だった。でも、日本の方が圧倒的に車椅子で移動しやすく、様々な対応も丁寧で、料理も美味しい。自分にとっての「幸せな国」は日本で見つけるしかない笑。至る道は険しくても。」
千葉市という地域の中でより良い未来を探す旅を、皆さまと続けていけたらと思っております。